書評:まだ読んでいないという人、こんなブログを読んでいる場合ではありません『サクリファイス』
著 書:サクリファイス
著 作:近藤 史恵
出版社:新潮社
かつてマイナーなスポーツも地上波で放映されていたものですが、オリンピックで日本人が大活躍でもしないかぎり、マイナースポーツを見ようと思ったらお金を払って観るしかなくなってしまった。メディアビジネスの環境も厳しいんでしょうね。
サイクルスポーツもそのカテゴリー。ツール・ド・フランスが地上波で放映されていた時代が懐かしい。
当時、深夜にテレビ観戦者していると家族から何が面白いのかと、よくなじられたものです。選手がレースに見い出すそれぞれの想い、価値観、駆け引きの面白さなど、興味のないひとに説明したってわかるはずないと思っていたが、この小説には全てが込まれていました。初心者でもロードレースの奥深さをしっかりと味わえ、ロードレースの魅力に引き込まれる作品だと思います。
私はわりと小説を読む方だと思いますが、いまでもオススメ小説ベスト3に入っています。作者の近藤史恵さんはこの小説を書くまでロードレースの世界をあまり知らなかったと聞いてとても驚きました。選手心理、環境描写があまりにリアル過ぎて自転車競技に携わっている方もしくは詳しい方も満足できるものだと思うから。
この作品を絶賛しているのは自転車好きだけではありません。第5回本屋大賞で第2位を受賞していることからも、また続編の「エデン」「サヴァイヴ」のヒットからも多くの人に支持されているのだと思います。
さて、この物語ですが、陸上競技から自転車競技に転向した主人公のミステリー要素を含んだ物語です。舞台となっているロードレースの情景がとても本格的に、かつ躍動感をもって描かれており、単なる謎解きではない奥深さがあるので本格ミステリーと言ってもいいかもしれません。
さらに、この作品のスゴいところは、ロードレースを全く知らない人でも、物語を読み進めるうちに専門用語やウンチクなども自然と頭に入ってきて、読み終えたときにはロードレースを語れるくらいにまでなっていそうだってこと。
自転車好きはもちろん、自転車って面白いの?と否定的な印象を持っている方にも、是非読んでもらいたい一冊です。